《Interview》ジャーナリスト 天笠啓祐さん

Wholefood Interview

ジャーナリスト 天笠啓祐さん

− それは玄米弁当から始まった −

 

| 天笠啓祐プロフィール | 

大学卒業後、製薬メーカー勤務、雑誌の編集を行う。その後フリーになり、立教大学・法政大学講師、日本消費者連盟の代表を務める。遺伝子や食の安全にかかわる問題をテーマに調査・執筆を行う。
「遺伝子組み換え作物はいらない!―広がるGMOフリーゾーン」「ゲノム操作・遺伝子組み換え食品入門」など著書多数。
ホールフードスクール応用コース講師。

 

◯ 遺伝子や食の安全の問題、第一線での取り組み

大学卒業後、最初は製薬メーカーにごく短期間いたことがありますが、その後雑誌の編集を行っていました。1990年代初めからフリーになり、現在に至っています。この間、立教大学・法政大学などで講師を行ったり、日本消費者連盟の代表になったりしています。

日常的には、調査して執筆する活動が主で、テーマは遺伝子や食の安全にかかわる問題です。しかし、企業は危険なものを作り続けていますし、政府は規制しません。そのため集会を開いたり、規制を求める取り組みを行ったり、署名を集めたりもしています。大豆畑トラスト運動のように食料自給率を増やす取り組みもしています。

2015年2月に行われた大豆畑トラスト全国交流集会でつくられた自然農法の大豆づくし料理(主催および撮影、筆者)

 

◯ お弁当からはじまった「ホールフード」

タカコナカムラさんが、当時、私が仕事場としていた小さな事務所に来ていただいてから、時はかなり経過しました。その時、たまたまお弁当を食べていたような気がします。そのお弁当の中を見て、すっかり気に入っていただき、そこからホールフードスクールでの講義が始まりました。

私は玄米を食べ始めてから、40年になりますが、主義主張で食べているわけでなく、美味しいから食べているのです。その時に食べていたお弁当は野菜と大豆入り玄米がベースで、それ以外の食べものは忘れましたが、木曾檜の曲げワッパの弁当箱に収められていました。実に美味なお弁当です。

タカコナカムラさんが熱く語られた、ホールフードの理念に共感しました。そこで提起されている丸ごと食べることの意味や価値は、栄養をわざわざ捨てている今の料理法の問題点を指摘して、時代を先取りしたものになりました。

全部食べることは、農薬や化学肥料を使った野菜などでは、最も有害物質がたまりやすい個所を食べることになります。そのため有機農業で作られた、あるいは農薬を使っていない作物を食べることが大事になります。環境汚染物質にも気を遣うことから、地球にやさしい生き方暮らし方が大事になります。

そういったことから「ホ-ルフード」と名づけましたと話され、すっかり意気投合したのを記憶しています。

ホールフードスクールの応用コースでは、いつも食の安全の最前線で起きていることをお伝えしています。食品添加物や農薬、遺伝子組み換え食品など、さまざまなテーマがありますが、日ごろの料理や食事に役立てばと思っております。

2004年に遺伝子組み換え小麦を承認しないよう、米国・カナダを訪れ、日本の消費者の署名を提出した。(筆者がカナダ政府に署名を提出)

 

◯ 美味しいご飯を食べ続けるために

いま日本の食料自給率は、カロリー換算で38%程度です。大量に食料を輸入しており、その多くを捨てています。輸入される作物の一部には、途上国からのものもあり、その多くがその国の人が食べる分を奪っているのです。しかも日本では食料の多くを食べず捨てています。残さず食べることに加え、調理の過程で切除されている皮などを食べれば、数字の上では自給率が80%近くになります。その意味からも、ホールフードという考え方はとても大事ですが、残念ながら、日本の多くの外食や家庭は食料をムダ捨てしているのです。

いま日本では貧困層が増え、まともに食べることができない人が増えており、コロナ禍がそれを加速しています。食料自給率を増やし多くの人に分け隔てなく行きわたるようにしていくことが、とても大切なのに。

2020年末にゲノム編集トマトが承認され、この5月から苗の配布が始まりました。ゲノム編集作物の開発者は主に農薬メーカーです。遺伝子組み換え作物やゲノム編集作物を開発する際、その大義名分を語る時に必ず出てくるのが、「世界から飢餓をなくすため」という言葉です。本気でそんなことを考えていないことは明白で、なぜ素直に「金儲けしたいから」といわないのでしょうか。本当に飢餓をなくしたいのであれば、なぜ種子を特許化して、他社の参入を許さないのでしょうか。

遺伝子組み換え作物が世界の農家や消費者に嫌われ、思うように種苗の販売ができなかったことから、世界の農薬企業が、各国政府に圧力をかけ、ゲノム編集食品については、規制しないようにさせてきました。そのため表示ができません。表示が無いため、食品だけでなく、種苗も選べません。

これまでほとんど注目されてこなかった種苗の表示ですが、いま注目が集まっています。

最近は、コロナ禍の中にあり、外出がままなりません。我が家では、自宅での食事はなるべく丸ごと食べることを心がけています。もし野菜に根がついていれば、それを植木鉢に移植して育てています。使い終わった茶葉などはたい肥になっています。我が家では生ごみはほとんどありません。

時々外出しますが、今はお弁当ではなく、おにぎりを持参しています。大豆の入った玄米おにぎりです。梅干をベースに鮭、たらこなど海の幸を具にしています。この美味しいおにぎりを食べ続けられるように、いま種苗の表示の大切さを訴える日々です。