《Interview》日東醸造株式会社 代表取締役社長 蜷川洋一さん

Wholefood Interview

日東醸造株式会社 代表取締役社長

蜷川洋一さん

− 醸造文化の歴史をつなぎ、進化させていくモノづくり −

|  蜷川洋一プロフィール | 

大学卒業後、酒類販売の江崎本店(名古屋市)に入社。同社を退社後、日東醸造入社。専務を経て、1994年から同社代表取締役社長に就任。
古来の麦醤を復興した「しろたまり」の製造・普及に力を注ぎ、全国各地で勉強会・手作り講座を行う。

大正初期、両口屋商店 創業。1957年、日東醸造(株)に改称。

1995年 「三河しろたまり」発売、1999年「足助仕込蔵」新設、「足助仕込三河しろたまり」発売。食糧庁長官賞他受賞多数。

大正期に創業した歴史と伝統を持つ老舗メーカーとして、その看板に固執することなく、守り続けてきた商品を大切にしながら、消費者のニーズをとらえた新しい方向にも積極的にトライしてゆく4代目社長。

日東醸造株式会社

http://nitto-j.com/

ホールフードとタカコ先生との出会い

はじまりは2010年、ホールフードスクールの卒業生、森田美香さんからの一本の電話でした。種まきプロジェクトというイベントで弊社工場見学がしたいとのお問い合わせをいただいたのです。タカコ先生には内緒ですが、私はただの田舎の醤油屋のオヤジですから、ホールフードもタカコナカムラも知らず、なんとなく面白そうだとお引き受けしました。

このイベントは、メインが先生のぬか床講座で、白醤油やしろたまりのお話と、工場見学がセットになった内容でした。ところが、なんとタカコ先生が直前の体調不良で来られなくなり、ぬか床講座は急遽、漬物屋さんの方が代役を務められ、とにもかくにも、何とか予定の内容をクリア!

後日落ち着いてから改めて、わざわざ先生がご挨拶にいらっしゃり、初めてお会いしました。このとき、八丁味噌や三河みりんなど、私の地元の醸造をよくご存じで、その良さを理解してくださっていて、もっと言うと愛してくださっているタカコナカムラさんを知ったのです。

ホールフードな醸しツアー

出会いから2年後の2012年、タカコ命令が飛んできました。「三河の醸しツアーをしたいから、お願いね!」

先生の大好きな三河の醸造蔵を巡るツアーをご希望で、当時はまだ地元業界では若い方だった私に、アテンド役のご指名です。各蔵の社長さまとスケジュール調整、日帰りでは消化不良だから宿泊先を探して、一泊二日の企画にして、移動手段から食事内容まで、旅行業法に抵触しないようにご紹介にとどめてプランを作りました。以来昨年まで8年連続で開催、自分でもびっくりです。

実は、私にとってもこのツアーは大きな転機になりました。

見学先の社長のお話を私も聞かせていただいたことで、この地域の醸造が歴史的につながりがあって、発展してきたことを知ったのです。これはとても重要なことで、弊社のしろたまりは、しろたまりだけがポツンとあるわけではないことをあらわしていました。豆味噌があり溜醤油があって白醤油が生まれ、しろたまりに至ったこと、それを踏まえたモノづくりであり、販売であるべきことは、その後の私の仕事に大きな影響を与えました。

ホールフードなワークショップ

ちょうど醸しツアーがはじまったころ、手探りでしろたまりの仕込教室を始めました。梅酒を作るような小さなガラス容器に、弊社で作ったしろたまり麹と足助の井戸水、海の精の塩を使ってマイしろたまりを仕込む教室です。

先生にお願いして洗足池の教室でもさせていただいたのですが、なぜか福岡で何度もさせていただきました。福岡ホールフードレディースの皆さんのおかげです。

九州は醤油文化が独特で、私はずっとしろたまりは売れないと勝手に思い込んでいました。ところがこのワークショップを何度もさせていただいたおかげで、福岡を中心にお店にも置いていただけるようになっていったのです。

この講座では、よく愛知の醸造文化のお話もさせていただきます。これはすべて、醸しツアーで各蔵の社長さまから教わったことで、門前の小僧習わぬ経を読む状態、さも自分が作っているかのように八丁味噌や三河みりんを語り、その歴史的つながりの中で生まれた白醤油、しろたまりをご説明しています。私は、自分の商品だけを紹介するよりも、この方がはるかに伝わりやすいと信じています。

私にとってのホールフード

最初はホールフードって、マクロビの全体食のことかと思いました。でももっと幅広くて、生き方そのものっていうかライフスタイルでしょうか。
ホールフードの良さって、まさにそこですよね。

以前、タイコウの稲葉さんに枕崎へ連れて行っていただきました。もちろんタカコ先生もご一緒に。様々な原料鰹があり、様々な加工工場があり、結果として様々な鰹節があって、それぞれに役割というか意味があることを教えていただきました。
醤油業界では、大手メーカーの機械化された量産工場で効率よく生産される均一な品質の醤油があり、一方では、手で麹を作って木桶に仕込み温度管理もしない、昔ながらの醤油があります。それらを比較することで、自分の生活の中での醤油の選択肢が見えてくる。

コロナが怖いからと言って無菌室に籠ってしまったら、感染からは免れたとしても人間らしい生活はおくれない。
それだけにとらわれず、まわりをみる、全体を見ることで、自分にできることをひとつずつしていくことが、私にとってのホールフードだと思います。

それからもうひとつ、タカコ先生の好きなところ、旨塩麹の講座のときだったか先生のひとこと、

「この方が簡単でしょ!」

エネルギーを使うのはそこじゃない、大事なのはここ!みたいな先生のバランス感覚が大好きです。