《Interview》特定非営利活動法人アルコイリス代表理事 株式会社アルコイリスカンパニー社長 大橋則久さん

Wholefood Interview

特定非営利活動法人アルコイリス代表理事
株式会社アルコイリスカンパニー社長

大橋則久さん

− ペルー原産のインカインチオイルを日本へ。
森といのちを育むアグロフォレストリー −

 

| 大橋則久プロフィール | 
2006年「国内外の生産者と連携し、その土地の自然環境・伝統・文化とともに学び、消費者と生産者双方の生活の質の改善に役立つ商品作りと、生産地の持続可能な開発を実証する」ことをミッションにNPOアルコイリス設立。サチャインチの生産・加工に携わる。生産地との連携強化のため2011年にアルコイリスカンパニー設立。ペルーの薬用・有用植物の生産・商品開発、地域開発などを行っている。
ホールフードスクール応用コース講師。

アルコイリス
http://www.arcoiris.jp/

◯ 人生をかけてやりたいことを探し、ペルーへ

アルコイリスは「ペルーのNGO・企業・大学と連携し、貿易の促進を基本とした相互交流による、持続可能な熱帯雨林開発の実証」をミッションとして掲げています。

大きく2つの活動分野があり、1つは、インカインチオイルを中心とした商品の、主に日本市場の開発です。もう1つは、インカインチオイルの原料のグリーンナッツ(別名サチャインチ)の栽培から加工生産までを行う、ペルーでの生産地の開発です。

元々は、写真家の永武ひかるさんのアマゾンに関する本を読んだことで興味を持っていたところに、ペルーのリマに勤務していた高校時代の友人を尋ねたのがきっかけでペルーと出会いました。ちょうど仕事を始めて7年経ったくらいの時で、自分の人生をかけられるものをやりたいと模索していた頃です。

生産地の方々とのご縁をいただいて活動する中で、アマゾン地域に持続可能な開発については、待った無しの状況だということを現地で感じるようになりました。長い目で見て続けられる経済活動が絶対必要だなと思うようになったんですよね。

 

◯ 主役となるインカインチとの出会い

ペルーの有用植物は4万種類もあるので、中心となる植物が必要だと常々思っていました。そんな中、ペルー人の研究者で実業家のホセ・アナヤと縁があり、「インカインチを知っているか?アマゾン原産のものすごいナッツがあって、良い油が取れるんだよ。油だけでなく良質なタンパク質も取れるんだ」と教えてくれたんです。アグロフォレストリー栽培をやるんだけど、一緒にやらないか?と。これだ!主役が決まった!と思いましたね。そしてインカインチオイルを開発したのが2006年です。

当時、インカインチオイルという商品は、日本では市場はゼロの状態で、誰も知りません。インカインチはなんですか?と言われるなら良いですが、インカインチキですか、なんてことも言われたりして。

じゃあその頃、アメリカ市場やヨーロッパ市場はどうだったのかというと、全くと言っていいほど認知されていなかったんですよ。

インカインチが伝統的に人々の生活に役立っていたということは、様々な文献もあり明らかになっていますが、現代社会においては全くと言っていいほど知られていない、知名度ゼロの商品なものですから、研究開発も含め、日本では市場開発を一貫して行ってきました。

◯ かつて「油=コレステロール」の時代から「良い油は積極的にとるべき」時流へ

これまで、ホールフードスクールでは油に関する講義を度々させていただいてきましたが、2006年頃は、脂質や脂質栄養と縁もゆかりもない、ずぶの素人でした。

当時、油については、「美容や健康のためには油は控えるべきだ」という考え方が主流でした。油イコール、コレステロールという誤解があったりして。2006年以降は、脂質栄養学が発展してきていると確実に言えます。

その流れの中で、控えるべきは悪い油であって、良い油は積極的にとるべきだ、良いとか悪いとかは単純に判断できないという考え方も広まってきて、バランスを取りながら油を摂取するべきだ、という考え方に発展してきたように思います。

様々なメディアを介して一般の人にも伝わり始めていたし、インカインチオイルを日本の消費者の方にお届けする上で、それが非常に有利に働いたという背景はありました。

そもそもなぜ、油は美容や健康の大敵、という考え方があったのかというと、何のために油を取るのか、という話になりますが、栄養成分表示で言うと、タンパク質や炭水化物と比べると、確かに油はカロリーが高い。カロリーが高いものは控えるべきだ、熱源としてとらえると油を控えるべきだ、という考え方によるものなんですよね。

ただ、油の役割というものをより深く見ていくと、確かに油は貴重なカロリー源ではあるのですが、それだけではなく、生理活性をもたらしてくれる貴重な栄養素でもあります。

そういったことが脂質栄養学の中で明らかになっていって、油に対する考え方が変わってきたのだと思います。

 

◯ 人間の体に欠かせない「油」の存在

人間の細胞の細胞膜は油で構成されていますが、細胞膜の機能として、細胞の内外を分ける膜であるということに加えて、様々な外からの情報や刺激を人間が受け取ると、細胞膜を活用して様々な生理活性物質を作るという機能があります。

例えば、チョコレートを食べると、その中には糖分が入っているので、糖分が入ってきたよというのが膵臓に伝わって、膵臓がインスリンを分泌します。その膵臓を構成している細胞膜の油を分解してインスリンというホルモン物質を分泌しています。

女性ホルモンや男性ホルモン、成長ホルモンなども同様に、その必要性を人間が認識すると、体内の細胞膜を構成している油を活用して、それらのホルモン物質を分泌します。

日常的にはわれわれは食事をして命をつないでいるわけですけれども、体内に入った油分は分解されて再合成されて、体の様々な部位の細胞膜を構成しています。ですから、日常的にとっている油が、例えば酸化した悪い油だったら、結局、自分の細胞膜も酸化した油になってしまう、ということなのです。

 

必須脂肪酸には、オメガ3とオメガ6があります。この2つは人間が自分で合成することができない、不足すると健康を害する原因になったり、悪くなったら命を落としてしまったりするかもしれない大切な栄養素です。オメガ3、オメガ6ともに、体の中に入ると消化して分解して再合成して、細胞膜を構成していくもので、そのバランスが悪かったりすれば、自分の細胞膜を合成する油のバランスも悪くなってしまう。すると、炎症体質になったり、本来分泌されるべきホルモンが分泌されなかったり、病気の原因になったりしてしまいます。

人間の体は70%が水分ですが、唯一例外があり、それが脳で60-65%が油です。

普段とっている油が最終的にどこにいっているかというと、全身の細胞膜、とりわけ脳神経組織。油はそれを構成している重要な要素なのです。普段とっている油のバランスが悪かったりしますと脳機能に与える影響は大きいということは脂質栄養学の中でも言われています。

そうすると、自分にとってなにがベストなのか?ということを知りたくなると思うのですが、単純に、インカインチオイルをとれば全て解決、ということでもありません。

お店に行って油を買い、お料理に使ったりして消費する「見える油」、その一方で、様々な食材や料理、加工食品などを食べる場合もあります。そういう食品に既に含まれている油、「見えない油」というのがかなりの量あります。

この「見える油」と「見えない油」の割合は、2対8くらいと言われています。

健康に配慮されているAさん、全く健康に配慮せず加工食品もたくさん食べてしまっているBさんがいるとしたら、全く同じ油をおすすめできるかといとそうではない、ということになりますよね。両方をトータルで捉えて、その中で、必須脂肪酸のバランスが良いかという話をしなければならない。

まずは、そこを認識するというのが大事かと思いますね。

◯ 「アグロフォレストリー」と「フェアトレード」の両軸で活動を展開

 

インカインチオイルの原料であるインカグリーンナッツは、ペルーのアマゾン地域、元々ジャングルの熱帯地域に自生していたもので、現地の人と一緒に栽培に取り組んでいます。

われわれの栽培の基本的な考え方、技術的な特徴の1つは「アグロフォレストリー」と言います。

アグロはアグリカルチャーのアグロ、フォレストリーというのは林業。分かりやすく言うと、農業と林業をうまく組み合わせることによって、焼畑農法に頼らずに、木や森を育てながら熱帯雨林地域の持続的な農業が実践できるという技術的な手法です。

 

もう1つ取り入れている考え方がフェアトレードです。

ものを作って加工などを加えて付加価値化して、最終的に消費者の方々にお届けする過程で得られる利益、その利益の配分に関しても、できるだけ消費者の方に対して適正な付加価値をご提供したい。加えて、生産者に対しての利益配分も適正にしたい。それにより、長期的な開発が可能になるのではないかと考えています。

 

7月10日、ホールフードスクールのオンライン講座で「油の選び方」についての講義を行います。

そこでは、見える油と見えない油が約8対2の割合になっていること、そして、みなさんに置き換えた場合にどうなるのか、という考えに展開できるきっかけをご提供したいと考えています。

油の選び方から使い方、そして、海を越えたペルーという国の生産地の開発や生産者との様々な活動、商品の品質を大きく左右している畑から工場までの管理など、様々なことをきっちりお伝えしていきたいと思います。