⦅interview⦆ 伊東 香苗(いとう かなえ)さん− 夢を叶える 幸せになるための作法を継承 −

巻頭インタビュー

「ホールフードなひと。」vol.28

伊東 香苗(いとう かなえ)さん

− 夢を叶える 幸せになるための作法を継承 −
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日本文化マナー研究家。4年間のミラノ暮らしで、ルネッサンスを支えた豪商・イタリア貴族から淑女のマナーを学ぶ。アンティーク陶磁器を両手で丁寧に扱う姿勢を認められ、イタリア社交界から受け入れられる。日本人なら当たり前の所作と心得が世界を広め、帰国後にマナー研究家への道を歩む。以来、講師育成を意識した丁寧なマナー指導は注目を集めている。各界でマナー講座を担う傍ら、KanaePartner代表・株式会社チーム学際の代表取締役社長・お懐紙コンシェルジュ協会・理事長など活動は多岐に渡る。日本の魅力を海外へ伝える伝道師として世界と日本をつなぐ架け橋を精力的に行っている。
ホールフードスクールのマスターコースの講師であり、タカコ ナカムラとのコラボ授業として「和食にすと」のマナー講座もされている日本文化マナー研究家の伊東 香苗さん(以下、香苗先生 略)。日本のみならず世界中でマナー講師として活躍する傍ら、講師育成にも力を注ぎ、各方面からオファーが絶えない。インタビュー前に、タカコ ナカムラに香苗先生の魅力を伺ってみた。「マナーの教え方がとにかく素晴らしくて生徒たちに知って欲しいと思ったのがきっかけ。ホールフードスクールは、食も環境もすべて学ぶ場所ですが、基本のマナーを知らないことは大人として恥ずかしいことですよね。香苗先生は、箸の使い方や食器の並べ方など、すごくきちんと教えてくださるので私自身、学ぶことが多かった。とにかく、所作の11つが美しいの」と、大絶賛!香苗先生にお会いした際の第一印象は、「華のある女性」だった。
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 和食にすと という講座では、タカコ ナカムラが郷土料理と行事食の話をし、香苗先生がマナー講座をされていると伺いました。いつもどのような内容でマナーについてお話されているのでしょうか?
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和食って何なのか?
コロナ禍の2年間、改めて和食とは、マナーとは何なのかを自問自答していました。人にお話しする際に、もう一度、何を伝えたいのかをゆっくり時間をかけて考えてみたのです。結局、和食というのは何かというと、やはり「命」なんですよね。礼儀作法とか、食文化に関する作法を教えるにあたっては、お箸の上げ下ろしでその方の価値が分かるというようなお話をさせていただいています。なぜそのような厳しいことを言うのかというと、あれは「結界」なんですね。お箸の位置からみて手前は、私たち人間の世界。お箸から奥は、神様。つまり、命の世界。そうやって考えた時に、私にとって和食とは、命そのものだということが分かりました。箸を使って食べるという行為は、神様の領域のものをいただいてありがたく命にさせていただくこと。そして私たちは生かされている。そのことを知るのが、和食の一番の神髄じゃないかなって思ったのです。
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コロナ禍の2年間を通して、改めてご自身でマナーの神髄を心に落とし込まれたわけですね。
はい。それを考えた時に、タカコ先生のホールフードという教えは、命そのものなんですよね。動物とか、お魚とか、野菜だって命じゃないですか。それをまるごといただくことに関して感謝をする。生かされていることの感謝。すべてのものへの感謝。ホールフードの考え方が私が思っていることと本当に一致しまして。そういう意味で、クラスでもそういうことを軸として皆さまにお伝えしていきたいと思います。ホールフードの考え方ですとか、神様に感謝する気持ちですとか、やはり自分が本当に思っていることを伝えないと自分が気持ちよくないですよね。
分かります。きちんと自分が腑に落ちていないと、聞いている人の心へは響かないですよね。
そうなのです。本を読んでいくら勉強したってあくまでも本で得た知識だけ。それをどうやって自分の中に落とし込んでいくか。やはり人に教えることは責任のあることですから、そんなことをすごく考えた2年間でした。
香苗先生がマナーの道へ進まれた経緯を教えていただけますか?
元々は、結婚してすぐ夫の駐在に伴ってイタリアに行ったのですが、そこで初めてマナーを学びました。駐在は日本の代表のような形で行っていますので、トップレベルの方々に接待を受けたりですとか、お付き合いする上で学ぶことは多かったです。当時は、イタリアがブームだったということもあり、イタリアのすべてを知りたかった。
イタリアのマナーは、どのようなことを学ぶのでしょうか。
 実は、イタリアはマナー発祥の地なんですよ。テーブルマナーもそうですし、国際儀礼のプロトコールもイタリアでできたといわれています。テーブルの食文化に関してはフィレンツェにあるメディチ家のカトリーヌ・ド・メディシスがフランス王アンリ2世のところへ嫁ぐ時に、カトラリーもシェフも料理もすべて持って行ったのが始まりなんです。それから、フランスはカトラリーという文化が生まれ、フランス料理が生まれました。
そうなのですね。マナーはフランスが発祥だと思い込んでいました。
イタリアのマナー技法の呼び名はあるのでしょうか?
イタリアの本家のマナーは、「ガラテオ」と呼びます。私が習ったのもガラテオの授業でした。元貴族の方が講師をされていらして。最初、私は料理教室だと思って入ってしまったのです。
料理教室だと思っていたら、本家のマナー教室に入ってしまったということですか?
そうなんです(笑)
当時の欧州では良家の子女はフィニッシイングスクールでマナーやホスピタリティを学んでいました。そんなクラスだったので、皆さん本当にホスピタリティがあって、何だか分からない私のようなアジア人に対しても香苗を何とか卒業させようプロジェクトみたいなことをいう子がでてきたりして。それによって、みんな仲良くしてくれました。そのような面白いことが起きたのは、私が日本人だったというのもあると思います。丁寧に物を扱う所作や人柄みたいなものを認めてくださって。品性のある立ち居振る舞いが信用を得るということを実感し、それは世界共通なのだと思いました。向こうの方々は心を開くとすごく優しい。全部、教えてくださるんです。仲間かそうじゃないかの線引きがすごい。一度、仲間になったらファミリーですから。「あなたにきっちり教えるからね。だから、必ず日本に帰ったらマナーの発祥の地はイタリアだということを伝えるのよ」と、言われて帰国しました。
香苗先生のマナー講座には、そういう大きなミッションも背負われているわけですね。
イタリアがマナーの発祥であることをお伝えしたいというのはありますね。いろいろな経験をさせていただきましたので、日本の良さも海外に行ったからこそ分かったというのもあります。帰国してから自宅でサロンのような感じでイタリアで学んだテーブル周りの話ですとか、食文化の話をしていましたら、口コミで話題になりました。マナー学会の方ともご縁ができて、日本マナー学会の理事としてのお誘いを受けてマナーの世界に入ったのです。
それから、食文化ですとか、テーブルマナーのことを中心にお仕事をされているのですか?
マナーは、ライフワークなんです。今は色々な仕事をしています。上場企業でアドバイザーを頼まれて、おもてなしコンテンツを作ったり、企業風土を視野に入れたマナーのコンサルタントをしています。それがまた面白くなりまして、日本のいいものを海外に発信することになりました。中国、韓国、ベトナム、ロシアなどの海外企業で外国人の研修をしたり、日本では代官山のコルドンブルーでも世界中からきた学生に食のマナーを教えていました。ちょうど、日本の和食がユネスコ文化遺産になった時に農水省が、日本のコルドンブルーで世界中のシェフを集めて日本食の良さを伝えたいという企画がありました。そこで、和の精神なども教えていました。日本のおもてなし文化は、日本の大事な資本ですので、大切にしたい。きちんと海外の方になんちゃってじゃなくて、ちゃんとしたものを知っていただきたい。着物もそうですし、和食もそうですし、そういうものをお伝えしたいと思いました。そこからいろいろと派生して、日本のいいものを海外に輸出する仕事を始めました。今は、日本が誇るべき文化や技術を海外へ広めることなどをしています。
まさに、日本と海外との懸け橋のような遣り甲斐のあるお仕事ですね。
海外の会社から、日本のおもてなしを自分の企業にとり入れたいという依頼がたくさんあります。そういう方たちに一体どういうことがホスピタリティなのか。おもてなしについての話をします。日本って、やっぱり特別なんですね。なぜ、日本はこんなに海外から人気があるのか。1つは、安心・安全であること。日本にいらした外国人には、日本のおもてなしは素晴らしく価値のあるものだと認識されていますし、私自身もそのように思っています。
マナー講師である香苗先生が
人の品格をみる時に一番、重要だと思うポイントは何でしょうか?
笑顔だと思います。笑顔でその方の人柄って出るじゃないですか。笑顔と一言で言っても、いろんな笑顔があるんです。人を馬鹿にした笑顔ですとか、本当に謙虚で、親しみやすい笑顔だったりとか、素直にものを習おうという笑顔だったりですとか、どんなに偉い方でも、「この分野に関しては知らないから教えてください」って言える方は、笑顔に出るんですよ。そして、本当にご自身に自信のある方々は、素直に分からないから教えてくださいって言える。素直な笑顔で表現をしてくださるんですね。やっぱり第一印象は、ご挨拶した時の笑顔で分かりますね。それと、挨拶も重要です。もう10年くらい大学でマナー講師をさせていただいているのですが、挨拶の大切さも同時に教えています。朝の「おはようございます」の挨拶は、自分を鼓舞するため、これから一日をはじめるというスイッチを入れるためにも必要なんです。それに挨拶は、一挨一拶(いちあいいっさつ)という四字熟語が語源です。言葉の意味は、「人の心に近づくということ」。禅の精神で挨拶をし続けるということは、自分の精神の鍛練になります。そうやって考えたら誰かのためではなく、自分の心を整えるためにもやった方がいいですよね。マナーはその方の品性そのものです。
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最後に、ホールフードスクールのマスターコースが10月からはじまると伺っていますが、そこでの意気込みなどあれば教えてください。
 マスタークラスに参加される方々は、ご自身も教える側に立ちたいと思われている方が多いとタカコ先生から聞いています。やはり、日本の大事な和食文化を発信できる人を育てたいですね。私は、講師養成を得意としていますので、今回の資格をとられた方々に対して、卒業後も個人的にサポートをして欲しいという方がいらしたら、もちろんお受けいたします。基本的には、企業とか大学とかBtoBが多いので自分で積極的に集客はしていないのですが、政治家の方とか、女性リーダーの方などにマナーの基礎から知りたいという方々にはプライベートでレッスンをしています。ホールフードスクールの生徒さんたちには、そのような相談ものっていきたいです。
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今回、インタビューをさせていただき、香苗先生の講座が人気であることがよく分かった。イタリアで本家のマナーを学び、日本のおもてなし文化と融合させたマナー講座は、他には類をみない。香苗先生ならではのオリジナルの価値は海外だけではなく、日本人にも改めて知って欲しい内容ばかりだ。「日本の魅力とは?」と、他国の方々から問いかけられた時に私たち日本人は何と答えるのか。一人一人が、日本の魅力を自信を持って伝えられる未来を。私たちは、再構築する必要性があるのではないだろうか。
取材・文/川越光笑(たべごとライター)