Vol.02 食と森と海は繋がっています

ホールフードでいこう 〜ホールフードを知ってもらうための入門コラム〜
written by タカコナカムラ

Vol.02
食と森と海は繋がっています


近年、世界各地で異常気象が起こっています。
「温暖化」という簡単な言葉で括られていますが、自然環境は確実に良くない方に進んでいます。
「環境問題」と聞くと、「私には関係ないことなんだわ」と思う人が圧倒的に多いと思います。自分の健康と環境は別の問題なのだ、と。
実は私たちの健康と環境は密接に繋がっているのです。
遠いように見える「健康」と「環境」が、一番近い関係であることをお話します。

山の健康を考えてみましょう。
かつての日本には、針葉樹、広葉樹、照葉樹などさまざまな種類の木が育つ理想的な山々が沢山ありました。戦後、焼け野原からの復興を目指して国産林を植える際には、育ちが早く、手入れがしやすい針葉樹を国策として植林していきました。針葉樹の代表的なものは、杉やヒノキです。
でも、けっして杉やヒノキたちが悪者というわけではありません。
1960年に海外の木材が輸入されるようになると、国産の材木の価格が下落、かつ人件費の高騰で安い海外からの材木の方が流通をするようになりました。
その結果、日本の林業は荒廃していきます。

森を捨てた日本人

「自然とは、人が手を入れないのが一番良い」というのは、間違いです。
自然と人間が共生していくことがとても大切です。間伐や下草を刈る、太陽の光を入れる作業も山の健康を守ることつながります。
健康な山の木々は、土砂の流出を防ぎ、水を蓄えて洪水を防ぎ、植物や人の暮らしに水と潤いを与えてくれます。
人の手が入らなくなった病気の山は薄暗く、動物も植物も生きていくことができません。病気になった木々は根を貼らなくなり、風水害に弱く、すぐに倒木してしまい、少しの雨や地震でも土砂崩れや洪水が起こりやすくなり、大きな災害になってしまいます。
2018年の広島の水害は記憶に新しいものです。
さらに、山の病気と同じように考えていくべき問題は、田んぼの消滅です。
田んぼは定期的に水を貯える小さなダムの役割があります。山に田んぼを作らなくなって、小さなダムがなくなったことも、大きな災害の引き金になっています。

山の病気が引き起こす現象

戦後大量に植林され、放置された杉やヒノキは、手入れのない森で根が痩せ、日に当たらず、どうにか生き残ろうと大量の花粉を飛散させるようになりました。花粉量は日射時間が長く、降水量が少ないほど、翌春は多くなります。
道路事情も、都会では、ほとんどが舗装された道です。土であれば、花粉を
浸みこませてくれるのですが、コンクリートの上では飛散時間が長くなり、
都市部での花粉症の症状が長く続く要因でもあります。
近年は花粉の少ない杉やひのきが植林されていますが、根本的な解決までは当面、花粉対策が必要となるでしょう。
山の病気は、動物達にも影響を与えるようになりました。
針葉樹ばかりでは、実がありません。病気の山や森では、植物や動物、虫たちも生きていくことが難しく、動物たちは食べ物を得ることができません。そのため、里山に降りて畑や納屋を荒らし、食べ物を漁る行為が目につくようになりました。
その結果動物の殺傷が行われ、絶滅の危機へとつながっていきます。
その問題を取り上げた本が
「クマともりとひと」 日本クマ森協会会長 森山まり子著
森=動物+植物 クマの保護を訴えていくと、自然環境の保護の問題へとつながっていくことを感じる一冊です。
参考 http://kumamori.org/
日本熊森協会

森は海の恋人

ホールフードを語るキーワードのひとつが「森は海の恋人」です。
私はホールフードを説明するときに必ずこのキーワードを紹介しています。
素敵な響きを感じませんか?
「森は海の恋人」は、宮城県気仙沼の牡蠣の養殖をされている畠山重篤さんの著書です。畠山さんは、日本の高度成長期に、気仙沼の青い海が赤く濁り始めた時、その原因が海の汚染ではなく、山の森の荒廃にあるといういことに気づきました。そして平成元年には、地元の漁師の仲間と一緒に室根山の植林運動を始められました。
森の腐葉土が川に流れ、海に雪、植物プランクトンを増やします。河川が数多く流れ込む海とそうでない海とでは、植物プランクトンの発生量が30倍から100倍も違いがあります。豊富な植物プランクトンが海藻や貝を育て、それを餌に動物プランクトンが増え、小魚がそれを食べに集まってきます。さらにその小魚を求め大きな魚が集まるという流れが、海における自然な食物連鎖なのです。どれが一つ欠けても、食物連鎖は崩れていきます。
つまり豊かな海を作るのは、豊かな森が必要であるということです。
日本の豊かな海産物のある場所の背後には、緑繁る山や森が必ず海を見守るようにそびえています。
昔から江戸前の魚が豊富に東京湾で獲れたのは、多くの河川が東京湾には流れてきているからです。
畠山さんたちの植林運動により、気仙沼の海はしだいに青さを取り戻し、美味しい牡蠣を育てていきました。

畠山さんが代表を務めるNPO森は海の恋人
http://www.mori-umi.org
サイト中の畠山さんのメッセージの一部を紹介します。
ホールフードと同じゴールを見られている気がします。

「森・里・海の関わりを限りなく自然に近づけるのは、そこに生きる人間の責任です。いかに豊かな自然があろうとも、そこに生活する人間の心持次第では、まったく異なった様相を呈するものに変化してしまいます。
海のことを考える時には森まで視野に入れ、また森のことを考える時には海まで視野に入れる―こうした自然の繋がりを意識できる人が増えれば、地域は豊かになることでしょう。
忙しい日々のふとした瞬間にでも、自然の繋がり- 森は海の恋人-に心を寄せてください」