《Interview》親から子へ 食卓に笑顔を運ぶ「第三世代」の天然酵母パン

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荒木和樹さん(左)・亮さん(右)

お店
味輝天然酵母パンin柏の葉
Open 10:00~18:00(火曜日、定休)
千葉県柏市正連寺394-11 C104
℡/04-7168-0884

自社で培養した米から作る天然酵母を「味輝酵母」と呼び、原料は米と糀と水だけを使う『味輝パン』。創業当時からイーストフード、乳化剤、防腐剤は一切不使用。『味輝パン』は、一般的に市場へ出回っているふんわり柔らかいパンではない。しっかりと噛み応えのある食感と素朴な小麦の香り、うま味の複雑さが人気を不動のものとしている所以だ。今年3月には、ファン待望の「味輝天然酵母パンin柏の葉」がニューオープン。新店舗の店長は、ドイツでパン作りの修行を終えた三代目となる荒木亮さんだと聞き、千葉県に開店された柏の葉キャンパスへ。荒木さん親子には、質問したいことがたくさんあった。

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幼少の頃から『味輝パン』を継ごうと考えていたのですか?
亮さん パン職人になろうとも考えていませんでした(笑)。

てっきり物心ついた時からパン職人を目指しているのかと思っていました。実は、以前タカコナカムラ先生が主催されたバスツアーに参加させていただきました。その日は、味輝パンの本社工場に併設された『MIKI CAFÉムスビ』でランチを予定していて、亮さんが楽しそうにピザを焼いていたのを覚えています。

亮さん そうだったのですね。僕が高校3年の時です。あの頃は、遊びで店のピザを焼いていたら面白いなっていう程度でした。当時は、父がピザカーでピザの移動販売を始めた頃。地元の上里では、『クーロンヌ ナチューレ』がオープンしたタイミングでした。

パン職人を意識し始めたのは、その頃ですか?

亮さん 進学を考えた時に、自然と浮かびましたね。もとから何かを作るのが好きでした。小さい頃はレゴとかブロックとかからはじまって絵を描く、粘度をつくる。その一環として、うちでは小麦粉、水、酵母があるからパンを作ったり、ピザをはじめたり。それ以外にもコーヒーのラテアートをやらせてもらったりしていました。とはいえ、父がどのように働いているかすら知らなかった。どうやらパン屋の社長をしているらしいというのは分かっていましたが、中学2年くらいの時までは、仕事ではなく遊びに行っていると思っていました。なんかラクそうだなって(笑)。でも、実際に手伝ってみて楽しそうだけれど大変な仕事をしているのを知りました。
パンやピザを焼く手伝いを通して、仕事としての楽しさを覚えていったのですね。お父様は、息子さんが跡を継がれていく様子をどのようにみていたのでしょうか。

和樹さん 『クーロンヌ ナチューレ』をオープンしたての1番きつい時、夜に亮が私の部屋を訪ねてきたんです。「ふざけんなよ、こっちは眠いんだよ」って正直思いましたよ。でも、息子が話がしたいということなんて滅多にない。これは、しっかり聞かなくてはいけないと思いました。それで、亮は「同じ方向に行こうと思うんだけれども」っていうわけ。私の会社を継ぐっていうことではなくて、「同じ道を目指したい。パンの仕事をしたいから海外へ留学したい」って。私は、「分かった。ドイツの知り合いに相談するよ」って言ったけれど、今度はこっちが興奮して夜寝れなくなった(笑)。睡眠不足で出勤しないといけない最高で最悪の日でした。

前からドイツという選択肢はあったのですか?

和樹さん 味輝パンの社員で外国人のヒッチハイカーがいました。その彼がいうには、「イタリアでスローフードや地産地消を学んで、フランスではパンを遊び、ドイツで本場のパンを習うのが俺の理想なんだ」って言っていた。私は、忙しくて叶わなかったけれど、そういう生き方もあるという話を子どもの頃の亮へしたことがありました。亮から同じ道を目指したいと言われたときに、パンを学びに海外へ行くこともできるの?って聞かれて。イタリアやフランスには知り合いはいないけれど、ドイツならパンの機械メーカーとのつながりがあったので候補にあがったのです。
ドイツへは、どれくらい留学されていたのでしょうか。

亮さん 現地のパン屋で働いていたのは3年間。語学留学を含めると4年くらいです。修行先のプログラムは、1年目はパンとは何かの理解を優先し、2年目以降は学校へ通います。パンの理論を徹底的に学ぶのです。分厚い教科書が3年分のカリキュラムとしてあって、化学や栄養学などを実践でスキルを身につけながら学んでいきます。卒業試験は、コロナの最中だったので、何度か延期になりました。実技と筆記の2種類があって、それに合格をすると、国公認のパン職人である「ゲゼル」という資格がもらえます。2020年にゲゼルを取得して帰国しました。
柏の葉店の棚には、ドイツパンのプレッツェルが置いてありましたよね。ドイツで学ばれた亮さんのシンボル的なパンという印象を持ちました。

亮さん ドイツでは、パン屋のマークがプレッツェルなんです。柏の葉の店では、何か特徴的なものを置きたかった。食感が違うパンを考えた時に、プレッツェルを焼いたら人気のパンになりました。僕がコソコソ作って食べているパンは、たいてい美味しいんです。この店のバタールも最初は、僕が勝手に作って食べていたものでした。いつもより多めに焼けたから家族に食べさせたら、父や妹から「なにこれ、美味しい!」って言われて商品化したものです。

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亮さん考案のバタールは、カリッと香ばしくチーズと白ワインに合う

亮さんがドイツで「ゲゼル」を取得されて『味輝パン』が、どのように変わったのか教えてください。

和樹さん 基本ベースは、私の親の配合。私が二代目で入ってから、酵母とか管理の仕方、製パンの機会などを変えてきました。いま、この店にあるのは、「第三世代のパン」。亮の世代のパンになっている。中でも新しいのは、ドイツの発酵技術をとり入れて作った味輝オリジナルの小麦甘酒。そのアロマを加えながら、麹で発酵させたものを計3つ混ぜているのが第三世代の味輝パンです。
『味輝パン』の魅力は、どのようなところだと思いますか?

亮さん 俺が思うことで大丈夫ですか? 1つは、天然酵母を使っているところ。イーストで作っているパンも美味しいですが、イーストにはない雑味(小麦粉や他の素材から生まれるうま味や甘味)がうちの酵母で作るパンにはあります。もう1つは、酵母を使うことで中種法(水、酵母で混ぜる方法)は、時間がかかります。最低でも中種を作るだけで16時間かかる。イーストだったら、3時間もあれば、粉の状態からパンが作れます。それができないというのが、デメリット。ただ、長時間発酵されるからこそ、小麦粉とかを分解して消化しやすかったり、体に負担をかけないパンを作れるっていうのがある。それがやっぱりうちのパンならでは。製法独自の消化のしやすさ、体に負担をかけない感じがあると思っていますね。

「中種法」を作る際の長時間発酵は、消化によいのですね。本来は人間が食べてから消化しなければいけない栄養素を微生物たちが事前に分解してくれるからでしょうか?

亮さん そうです。通常、イーストでパンを作ると小麦粉、塩、水、砂糖とか、卵とか、加えて混ぜて発酵させて焼く。そうすると、小麦粉の粉の状態からでは、でんぷんとか、タンパク質を分解してくれる量が少ない。うちの場合は、あらかじめ発酵させた中種を使うため、70%強くらいはすでに分解されている状態。あとは固さ調節のために粉や塩を足して作っているので消化がいいのです。これは、ドイツのマイスターが話していたことと一致します。ドイツのサワー種というのが、うちの中種法によく似ているなぁと自分は思っているんですよ。サワー種は、同じように小麦粉と水と、あとは古いサワー種(味輝パンでいうと、味輝酵母と呼ばれる酵母)を混ぜて、1日とか2日とかに分けて分解させたものにライ麦粉と塩を足して作るのがドイツでは正式なサワー種を使った方法。やはり、一度発酵させて作ったものは、体への負担が圧倒的に少ないことをドイツで習いました。そのノウハウは、うちの酵母で作った中種法と同じことなので、身体に負担が少ないのが分かります。よく、うちのパン食べて胃もたれしないとか。アレルギーが出にくいという話を聞いていて。子ども心にそんなことあるのか不思議に思っていた。でも、マイスターの話を聞いて、1回分解させたものは消化しやすいのがよく分かりました。うちのパンにしかない利点の1つです。

ドイツでパン作りを学ばれて『味輝パン』の良さと合致した時に、どのように感じましたか?

亮さん それまでは、別にイーストでもいいんじゃないかと思っていた。でも、手間はかかるけれども、うちのやり方に間違いがないことを知りました。

ご自身が実感されたことは何よりも大きな気づきですよね。『味輝パン』での今後の展開や目指すものがあれば教えてください。

亮さん うちの味輝酵母と北海道の生産者の小麦粉は大事にしたい。その上で、違った変化を絶えずとり入れていけたらいいなとは思っていますね。いま、グルテンフリーのパンが面白いなぁと思っている。この店に来る、半年前くらいからグルテンフリーのパン作りの開発をメインでやっています。実は、自分自身にグルテンアレルギーが若干あるんですよ。うちのパンだけを食べている分には、アレルギーを感じなかった。元々、麹パンというグルテンフリーのパンをうちでは作っていたんですけれども、これは思ったよりも面白いパンができるのかもしれないなと思っています。ドイツパン風のようなものはある程度、完成してできたのですが、材料が足りない。そのレシピをもとに改良したのが、いま店にある白カンパーニュです。

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白カンパーニュはグルテンフリーと思えないほど満足感のあるパンだ

先ほど、お店のショーケースで初めて白カンパーニュをみました。ネーミングも素敵ですね。息子さんは、ドイツでパン職人になって帰国されたわけですが、将来的に息子さんへ何か望むことはありますか?

和樹さん 自分のやることで精いっぱいです(笑)。一代目の私の親が抜けるのがあと何年かのカウントダウン。味輝酵母の仕込みは私がしっかりと引き継がなくてはいけないから。その合間に指示を出している暇がないかもしれない。唯一、考えているとすれば、亮も話していたグルテンフリーのパンを増やしたいのと、柏の葉店では、オーガニックのパンをやろうと思っている。オーガニックとグルテンフリーを強化したいですね。世界中でもグルテンフリーで作れる技術はあまりないので、将来的には海外への出店などもできたらいいと考えています。

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お2人の会話は、親子ではありながら信頼し合っているビジネスパートナーという印象を持った。職人の世界は代々バトンを渡すプロセスが必要だが、同じ道を選ばない子どもたちも増えていると聞く。親の方が楽しく遊ぶように仕事をしていたら、いつしか子どもは同じ方向に目線を合わせるものなのかもしれない。今後の亮さんの活躍に期待しつつ、三世代の『味輝パン』を買って帰った。亮さんの作るパンは、彼の朗らかで芯の強い性格がじんわりと伝わる。軽やかで、噛むほどに味わいが広がるようなパンだった。

取材・文/川越光笑(たべごとライター)

ホールフード協会公式YOUTUBEにて、味輝パンの酵母蔵の様子を公開!

味輝パン初代、荒木さんのインタビューも必見です。

味輝さんのピザ生地、オンラインショップにて好評発売中!

https://wholefood.thebase.in/items/25103040