《Interview》大野屋コンニャク店 社長 根岸良幸さん

Wholefood Interview

大野屋コンニャク店 社長

根岸良幸さん

− 創業120年の老舗こんにゃく店『大野屋』 −

◯ こんにゃくエレジー

大野屋は、埼玉県本庄市のこんにゃくの生産者です。社長の根岸良幸さんとは20数年のお付き合いをしてまいりました。今月は、ホールフード協会の法人会員として、あらためて、紹介させていただきます。

社長の根岸さんのこと、私は出会ったときから親しみを込めて「よっちゃん」と呼んでおります。私より年上なのに・・・・ごめんなさい。

「昔は豆腐よりこんにゃくの方が高かったんだよ~。」と、よっちゃんは嘆きます。

『大野屋』のこんにゃくは、300円台。

「哀しいことに、それでも高いという人がいるんだよ〜〜」

こんにゃくほど、実態を知られていないというか気の毒な食材はないと私は思います。

 

◯ こんにゃくの栽培方法は?

こんにゃくの原料、こんにゃく芋の栽培方法は意外に知られていません。こんにゃく芋は、種芋から成長するのに2~3年かかります。春に種芋を植えると新イモができ、そこから地下茎が伸び、秋には生子(きご)というこんにゃく芋の赤ちゃんが生まれます。秋になると芋を掘り起こし、13度以下にならないように保管。場所によっては、暖房を入れることもあるそうです。そして翌年の春に再び、芋の植付けをします。これが芋の1年生。これを秋に収穫したものは2年生。さらにその次の春に植えて秋に収穫したものを3年生と呼びます。こんにゃく作りに適しているのはこの3年生なのです。

こんにゃく芋は寒がりで低温に弱く、腐りやすいため、収穫してから次に植えるまでの保管がとても難しい、虚弱体質。病害虫にも弱いため、産地では土壌消毒が必須。かつて、群馬でこんにゃく畑の見学をしたことがあるのですが、コロナ感染の防護服を着用しての土壌消毒を見ると、こんなこんにゃく芋で作るこんにゃくを食べたいとは思いませんでした。

これほど、手間暇かけて作るこんにゃく芋ですが、一般的にはこれを原料とするより、こんにゃく粉で作ることが多いそうです。そのため、こんにゃく芋の生産者も激減しています。

◯ 創業120年の老舗こんにゃく店『大野屋』

『大野屋』のこんにゃく芋は、有機認証を取得されている芋作りのレジェンド富岡市の堀込理さんの芋をずっと使い続けています。

それが最大のよっちゃんのこだわりでもあり、だからこそ、とびっきりの味に仕上げたかったのです。

こんにゃく芋の栽培法を知れば知るほど、頭が下がり、300円は決して高くないと思います。

夏になると食べたくなるのが、『大野屋』の刺身こんにゃく。こんにゃく芋を乾燥させたチップを煮て、凝固剤で固めます。その時、凝固剤の量を最小限にすることで、とろけるような絶妙な食感が生まれます。刺身こんにゃくは、青海苔が入り、ぷるん、ぷるんと翡翠色に輝いています。

添付されている酢味噌は、これまた京都の白味噌と米酢を使った、化学調味料なしの安心印。この夏、オンラインショップで取り扱いをしたところ、リピート率も高い夏のヒット商品となりました。

 

◯ 缶蒸しこんにゃくを選ぼう

安全な原料でつくられていることをパッケージに書いたり、声高で叫んだりすることもなく、うんちくなし、ノーメッセージで販売されています。

「よっちゃん、もっとアピールすればいいのに」と毎度口出しをするのですが、よっちゃんは「いいよ、いいよ、食べたらわかるからさ」と謙虚なよっちゃん。

こんにゃくは独特のアクがあり、臭いもあります。こんにゃくの製造のポイントは「缶蒸し」という工程。出来上がったこんにゃくを一晩、お湯につけて、アクをゆっくり抜く工程です。

現在では、この仕上げの工程をやっていないメーカーが大半だといいます。

最近よくみかける下茹でなしで使えるこんにゃくは……? 原料の段階である種の添加物を入れる、つまり手を抜くことができて便利なものには、理由があるということです。

隠れたヒット商品、もうひとつ。

よっちゃんのところてん。伊豆諸島のテングサを使い、8時間ほど煮詰めてつくるところてんは、最高の食感。ところてんは、関西では黒蜜。関東では、三杯酢とからしがお決まりなのですが、よっちゃんは、「三杯酢」と「京都の七味」が添えられています。

ぴりっと山椒の香る七味、めちゃ美味しいです。

◯ 美肌のもと、こんにゃく

 

群馬県の女性に肌の美しい方が多いのは、うるおいを守る働きのある「セラミド」を含むこんにゃくをよく食べるからだといわれています。

また、こんにゃくに含まれるグルコマンナンは水溶性の食物繊維で、カロリーが低いことからも、健康が気になる人には欠かせない食材です。

こんにゃく芋の生い立ち、製造工程、そして、根岸社長のこんにゃくにも似た優しい人柄が詰まった商品たち、まだまだ残暑厳しい日々、ぜひ、ご試食ください。

ホールフード協会は全国でホンモノのモノ作りをされている生産者とその価値を理解する消費者を繋ぐネットワークです。

商品も人と同じで、外見、パッケージだけで判断してはいけません。

私が大好きだった「ながさく」という短冊状のこんにゃくもかつては製造されていました。この幻の長柵を復活してほしいと密かによっちゃんにお願いしております。

文・タカコナカムラ

大野屋こんにゃく(ホールフードショップ まるごと)

https://bit.ly/3gexKaH

*この文章はぐるなびippinサイトに寄稿したものをリライトしたものです。