⦅interview⦆ アリサンパークKay Bayles (ケイべリス)さん

インタビュー

「ホールフードなひと。」vol.27

Kay Bayles (ケイべリス)さん

-有限会社アリサン-
ありさん6
アリサンパーク
https://alishanpark.com/
〒151-0053 東京都渋谷区代々木5-63-1
7:30 AM - 18:00 PM 定休日:水・木
Tel: 090-9680-7331 park@alishan.jp
「アリサン」は、知る人ぞ知る日本を代表するオーガニック食材の卸売店です。
創業は、1988年。日本にまだオーガニックの認証制度「有機JAS認定」がない時代に、オーガニック・マーケットを作ってきました。本社は、自然豊かな埼玉の山間部、埼玉県日高市高麗(こま)本郷にあり、「阿里山カフェ」を併設して連日賑わいをみせています。「阿里山カフェ」は、100%ベジタリアン。肉や魚を使わなくても豊かでおいしい食を提供しているため、店を訪れる人の中には、ベジタリアンメニューだということを知らない方も多いとか。来年は、アリサン創業35周年。このタイミングで今年(2022年)、渋谷区の代々木公園の目の前に、カフェ『アリサンパーク』をオープンすることになりました。2号店は、ジャックとフェイの子どもたちが責任者です。実は、アリサンの創業者であるジャックとフェイのご夫妻は、タカコ ナカムラとは創業以来からの長いお付き合い。セカンドジェネレーションの成長と活躍を楽しみに、オープン時の『アリサンパーク』へ、タカコ ナカムラが駆けつけました。
***
タカコ ナカムラ(以下、タカコ略)
「アリサン」と、ホールフードとのご縁は、私が「アリサン」の商品を30年以上前に使い始めたのがきっかけでした。その時から、ジャックとフェイのポリシーは全く変わっていないですよね。そればかりか、子どもたちにきちんと伝えてきたことが素晴らしいと思います。今日は、新店舗である『アリサンパーク』の責任者になられた娘さんのケイを中心に、『アリサンパーク』のオープンに至った経緯と、これからの夢についてインタビューさせていただきます。
タカコ:『アリサンパークは、娘さんの息子さんのジェイが中心となって計画をされたと聞きました。今日は、ジェイは不在で会えずに残念ですが、ケイがお店の責任者として立派に対応されている様子がみれて本当に嬉しいです。
ケイさん(以下、ケイ略):ありがとうございます。『アリサンパーク』は兄のジェイと私が責任者で、セカンドジェネレーションで進めています。ジェイと私は異なった専門性があります。ジェイが建築サイドを担当し、私はオペレーションやインテリア、ブランディングを担当しました。ジャックとフェイ(両親)と同様に、私たちはいつも一緒に働いています。よく働き、よく喧嘩もしましたね。この一年は特に喧嘩が多かったです。業者さんにただ依頼するというだけではなく、両親が高麗の本社とカフェを作ったように、業者任せではなく、この『アリサンパーク』に関わりたいと思っていました。高麗の「阿里山カフェ」を作った時に私たちは一緒に見ていましたが、兄も私もまだ小さかったので。今回は、私たちが『アリサンカフェ』のオープンに向けてリードし、両親に工事や業者などをサポートしてもらったという感じです。
ファミリーで一緒に仕事をしたことはこれまでもありますが、今回の『アリサンパーク』が4人で取り組む今までで一番大きなプロジェクトでした。父のジャックは、木材選び担当です。床やカウンターテーブルなどの木材選びですね。木にはとてもこだわっていたので、木材屋さんに足を運んで選んでいました。カフェのテーブルは、パレット(輸入食材が入っているケースのこと)の再利用なのです。他にも、テーブルはソイミルクが入っていた時のものやジュースが入っていたものを使っています。ジャックをはじめ、本社スタッフで手作りしました。
EAEE3FAC-4C88-449D-A1A3-FC5EDF03C6A4
左から、ジェイさん、ジャックさん、ケイさん、フェイさん
ジャックさん(以下、ジャック略)
パレットには、オークの木を使った美しいものもあります。通常は運搬に使われた後は燃やされてしまうものです。私たちは、それを捨てずに再利用しています。店の商品は世界中から届きます。ヨーロッパのパレット、アメリカのパレットなど、パレットも多様です。机は、日本のバレットでサワラという木材のものを使ったりもしています。
ありさん3
タカコ:ケイもお兄さんのジェイも小さいときから埼玉の高麗でご両親と過ごしていましたよね。
ケイ:はい、小さいときから「アリサン」の会社の中で育った感じでした。会社のスタッフの方にも育ててもらいました。その当時から今も働いている方もいて、私の日本のおばあちゃんという感覚です。夏休みは農家さんに会いに行くのが普通で、このような夏休みの過ごし方をみんなもやっているものだと思っていました。
タカコ:生産者を巡るときもいつも一緒でしたよね。以前、海外への買い付けに同行させてもらったことを懐かしく思い出しました。
ケイ:はい、懐かしいです。両親が生産者へ質問をしながらメモをとっていたのですが、その真似をしてノートによく書いていました。海外に行くときは農家さんを尋ねるだけではなくて、スーパーを巡ったことも覚えています。どの町に行くときも必ずスーパーに行きます。1,2時間滞在をして、いい商品を見つけたら、サプライヤーにすぐ電話をしていたり。ポップアップイベントにも一緒に連れて行ってもらっていました。
タカコ:生産者を一緒に巡って感じたことは何ですか
ケイ:家族が一緒にいる、ということです。農家さんの家に泊まって、農家さんの家族と一緒にディナーをいただいたり。Family feeling(生産者の方とは家族の一員)だな、と思いました。また、もう一つが両親共に生産者の方々は、オーガニックの業界を広げたいんだなということを強く感じました。自分の商品を買って欲しいというより、一緒にオーガニックを広げていこう、と。
ジャックが、日本でこれが必要なんだけど、という話をすれば、友達がこれを売っているよ、というようにすぐ紹介があったり。みんなで広げて行きたいという気持ちを感じました。
ありさん4
タカコ:ずっと一緒に過ごしてきて、将来的には「アリサン」に関わろうと思っていましたか?
ケイ:絶対やらないと思っていました(笑)。大学ではマーケティングを勉強していたのですが、ブランディングなどお客さんとコミュニケーションをするのが好きで、オーストラリアに引っ越して、そういう仕事をしたかったのです。「アリサン」で働きたくないというわけではなくて、自分のしたいことをしたかった。本当は、「アリサン」と似ているけど違う会社、例えば「アリサン」の商品の輸入元の会社などに入ろうと思っていました。でも、兄と話して分かったことがあって。「アリサン」のストーリーや生産者がどんなことをやっているのか、伝えるコミュニケーションが弱いと感じたんですね。そこで、私がしたいことは、「アリサン」に必要なことだと感じて、ジェイと同時に日本に帰ってきて、「アリサン」で働き始めたのです。
タカコ:しばらく、オーストラリアにいたのですか
ケイ:いえ、アメリカの大学にいました。ジェイは日本に帰って「アリサン」で働くと決めていたのですが、私はオーストラリアに行くつもりでした。「アリサン」のことは信じているから、違うことを経験したい、違うところに行きたい、という気持ちからです。元々「アリサン」で働くのが嫌だったわけではなく、ちょうど私がやりたいことが「アリサン」にフィットした感じでした。特に、両親から帰ってきて欲しいとは言われていませんでしたが、きっと帰ってきて欲しいと思っていることも感じていました(笑)。
フェイさん(以下、フェイ略):私たち夫婦は、30年間で「アリサン」の基礎を作ったから、もし子どもたちが日本へ戻ってきてくれるなら、次の世代の店を作ればいいと思っていました。
ありさん5
ケイ:父のジェックは「○○をしなさい」とは決して言わないんですよ。例えば、ジャックはベジタリアンですが、私はベジタリアンではありません。家の中では肉を食べないという野菜ベースの生活をしていますが、外では肉も魚も食べます。ジャックはいつも選択肢をくれていました。家の中で、ベジタリアンのメリットや環境への負荷などの知識はもらっていますが、同時に人それぞれの判断という考え方も教わっています。
私はストイックな食のルールを自分につけようとは思わないので、ベジタリアンではないのですが、野菜は普通の人よりはるかにたくさん食べていると思います。両親はベジタリアンになりなさい、とかオーガニック製品をすべて使用しなさい、という発信を「アリサン」でもしていませんが、子育てにおいても同じなのです。
フェイ:何をやりたいか、考えるのに時間がかかりました。
ケイ:私たちは自然が欲しかった。この場所が「アリサン」に本当にフィットしていたので、『アリサンパーク』をやることに決めました。
タカコ:都心で、これほど自然豊かで素敵な物件は、ほとんど出ないですよね。
ケイ:東京にお店を持ちたいという思いは、ずっとありました。私たちのことを知ってもらう環境を作りたかったです。
タカコ:『アリサンパーク』全体のコンセプトは何ですか? 「サステナブル交流拠点にしたい」というようなことも伺いましたが、どのようなイメージでしょうか。
ケイ:埼玉の「阿里山カフェ」とコンセプトは同じです。日常に、ヘルシーなライフを取り入れられるきっかけ、ロケーションを作りたかったのです。埼玉とやっていることは同じですが、東京には人がたくさんいるので、もっと簡単で、気軽に、オーガニックが始められるようにアイディアを練っています。早朝から営業をしたり、小さいサイズのナッツを用意したりなど、近くを歩いている人が簡単にオーガニックを取り入れられるように。今後はもっとテイクアウトを充実させていきたいですね。
ジャック:日本にはスペースの供給が不足しています。たくさんの人が、クリエイティブ活動やコミュニティ形成、楽しいアクティビティをしたいと思い、レストランや公園に行きます。埼玉でも人々が食卓を囲む場所を作りました。今回は、この場所を作ったことで、これから何が起こるのかとても楽しみにしています。
ケイ:ジャックは、人が繋がることがハッピーで、食べ物は人を繋げるとても簡単なツールだと、よく話しています。ここは、1、2階がカフェとショップでフードで人を繋げる場所です。3階は、イベントスペースです。フードを知ること、作ること、ワークショップなど食以外でも人が繋がる拠点になってほしいと思っています。ヨガや瞑想、「アリサン」の商品を使った料理教室などをやる予定です。
また、『アリサンパーク』の由来なのですが、公園の近く、というだけではなくもっと深い意味があります。みんな、公園にそれぞれ違う理由で来ますよね。運動やピクニック、犬の散歩など。そして、公園を出ていくときには、来た時よりも癒されたというか、ポジティブな気持ちになっているはずです。私たちの新しい東京の拠点も、そういう場所にしたくて、『アリサンパーク』と「パーク」を名前に入れました。ちょっといいものを体に取り入れる、スタッフとのいい会話がある、ショップを見て知識を得る、そうしてちょっと自分の人生にハピネスが足されて、ここを出ていく。そういう意味での「パーク」です。
ジャックは「happy days」というフレーズがお気に入りで、『アリサンパーク』のトイレにも書いてあったり、手紙の結びの言葉にも使ったりしています。『アリサンパーク』は、happy daysをもたらす場所なのです。
ジャック:私の人生を振り返って見ると、いつも良い思い出は食の周りにありました。大きい家族で、食卓はいつもみんなで囲んでいました。父の仕事場が家から5分の立地だったので、朝ご飯もみんなで一緒に食べていました。近くの親族が集まるサンデーディナーという文化もありました。また、自然もすぐ近くにありました。私は、このロケーションを見たとき、なんて「アリサン」にフィットしているんだろう、と思いました。
ケイ:将来は、ピクニックセットなどもつくって、公園で食べることを提案したいし、フリスビーのレンタル等、公園と繋がる企画を始めたいです。私も自然が大好きなので、自然の中で食べてきて欲しい、と思います。
タカコ:今後は、おむすびなど和のテイストを入れる予定はありませんか?
ケイ:ぜひ入れたいです。私も家族もご飯が大好きなので、もっとライスを使いたいと思っています。ですが、『アリサンパーク』が外国のイメージなので、最初はそれにフィットさせるために、入れませんでした。将来的にはぜひ入れたいです。
ケイ:日本に来るベジタリアン旅行者のスペースにもしたいです。そういう方達は、きっと日本のベジなものが食べたいと思うので。押し寿司のベジバージョンなど…後は、母のフェイの故郷でもある、台湾のフレーバーをもっと入れたいです。実は、このお店は台湾の調味料が一番よく売れます。高麗との違いにびっくりします。高麗にあるカフェはチャイが人気ですが、ここはコーヒー等。この土地のニーズをしって、もっと変えていこうと思っています。
ケイ:東京にお店を持ちたいという思いは、ずっとありました。私たちのことを知ってもらう環境を作りたかったです。
ケイ:あと、『アリサンパーク』の特徴は朝の7時半にオープンすることと、犬も入れるところ。近所の人たちのコミュニティを強くしたい狙いがあります。朝のひと時に顔を合わせて、会話ができて、「また明日ね」というようなコミュニケーションを大切にしたいです。私たち家族は朝の時間がとても好きなので、それを広げたいと思って7時半にしました。
タカコ:朝活といえば、丸の内朝大学もとても人気ですよね。講師に呼ばれて行ったこともありますが、たくさん人が集まっていて驚きました。7時に来て勉強して、簡単な朝ご飯を食べてから8時に解散するスタイルです。
ケイ:そうなんですね。私たちも、最初は朝働くスタッフを見つけるのが大変だと思っていたら、そんなことは無くて。お客さんでも7時半のオープン前に並んでいる方もいて。朝のスタイルに人が集まっている感じがします。
タカコ:私もここがスクールだったら、7時にスタートのレッスンをやってみたいです。仕事の前にちゃんとした朝ごはんを食べて、いってらっしゃい、と声をかけたい。
ケイ:それは素敵ですね。
フェイ:ぜひ一回、やってみましょう。
ケイ:ジャックは、通常の人が朝の9時から夕方5時の間にやることを、朝時間だけで終わらせてしまうのですよ。運動をして、新聞を読んで、取引先にメールをして。それが9時には終わっている。そして朝のスタッフには、ジャックが朝ご飯を出しています。
ジャック:日中はプロダクティブになるのが大変ですが、朝は誰にも邪魔されず、集中できますからね。
タカコ:私は、ケイにベジブロスを伝えたいです。野菜の皮や根っこはカフェに絶対あると思うので。
ケイ:ぜひやりたいです。
ありさん7
フェイ:埼玉の「阿里山カフェ」では、べジブロスをやっていたのですが、ここ東京ではまだ出来ていないですね。料理はこれからもっと頑張らないと。
ケイ:まだアイテムが少ないので、これからもっと充実させていきたいです。
タカコ:最後に、これからケイがやってみたいことについて教えてください。
ケイ:これまで、朝の話をしてきましたが、私はナイトタイムのカジュアルでオーガニックなBARをやりたいんです。ストイックなオーガニックじゃなくて、ポップに楽しくオーガニックを伝えたい。オーガニックワインやビール、カクテル等を楽しんでいただきたい。高麗はベジタリアンカフェと知らずにお客さんが来るのですが、そういうスタイルが理想です。
ジャック:食事は宗教ではない。基本の生活が正しい方向を向いていれば、ジャンクな物を食べてもいいと思うのです。
ケイ:ビーガンと聞いて、え?!ってなるのは本当にもったいない。美味しいビーガンスイーツなどいいものがたくさんあります。ただ、違う食べ方も美味しいね、という感覚で週に一回ビーガンを楽しんでみるとか、そういう選択肢を世の中に提供していきたいですね。
ケイ:まだアイテムが少ないので、これからもっと充実させていきたいです。
***
今回、インタビューに同行させていただき、ホールフードスクールと同じように環境や生産者を大切にするコンセプトに心を打たれました。同じ志を持った仲間のビジネスが、若い世代へ受け継がれていくというのはとても嬉しいことです。30年以上前から、日本にオーガニック市場を作り上げた、「アリサン」のジャックとフェイの仕事をみながら育ってきた、ケイとジェイ。お客さんとのコミュニケーションを大事にしたいと何度も語る、第二世代の彼らが、周囲を巻き込んで、これから「アリサン」をどう育てていくのか、とても楽しみです。(北澤)
インタビュー:タカコナカムラ
文:北澤幸絵(ホールフード協会 事務局)