《Interview》小伴天はなれ日本料理「一灯」料理長 長田勇久さん

Wholefood Interview

小伴天はなれ日本料理「一灯」料理長 長田勇久さん

− 仲間と共に和食文化や愛知の発酵文化を伝えていく −

| 長田勇久プロフィール  | 

1965年生まれ、愛知県出身。大学を卒業等、東京の老舗「つきぢ田村」で6年間修行。
その後、実家である「小伴天」(愛知県碧南市)へ入社。現在は一灯を開店し、料理長として地元愛知の伝統野菜や、醤油やみりんなどの醸造品の普及に貢献している。

地域の産業に貢献したものに贈られる、農林水産省を受賞。日本の和食を代表する料理人。

小伴天はなれ 日本料理「一灯」

http://www.katch.ne.jp/~kobanten/kobanten08.html

◯料理と共に、季節の食材、和食の良さを伝えて

一灯の店名は「一灯照隅 万灯照国」という言葉に由来します。一つの灯りで自分の脚元を照らす。その灯りが集まれば国をも照らすことが出来る。

ここ愛知三河は食に関する素晴らしい方(灯り)が数多くいらっしゃいます。自分もその灯りの一つとなり、料理を通して灯りを集め、地域を食の灯りで照らしていきたいという思いから名付けました。

料理と共に、季節の食材のこと、和食の良さなどをお客様に伝えています。そして仲間と共に和食文化や、愛知の発酵文化を発信する活動にも色々と取り組んでいます。

また、本店である小伴天は昨年創業100年を迎えました。昔から鰻を炭火で焼いて、地元のたまりやみりんで仕込んだたれで仕上げます。本質は変わらないのですが、たれの配合や焼き方などは時代に合わせ技術と共に年々進化させてきています。「温故知新」の気持ちで、伝統の味を守っております。

◯東京の真似ごとの料理から、「ここの料理だ」と胸を張れるような料理へ
 
大学を卒業して東京へ修業に行き、東京築地の日本料理店、つきぢ田村で修行をさせていただきました。田村さんはテレビなどの取材も多く、当時はバブル期だったこともあり、一人10万円のお客様の席や、週末になると1日400人ほどの懐石料理のお客様があり非常に盛況でした。早朝から深夜まで、忙しく6年あまり働かせていただき、帰ってきました。その時は東京で上級の仕事をしていたと思っていたので、少し地元を小馬鹿にしていたと思います。田舎なので東京の高級な料理をちょっとお得に出していれば大丈夫だろうと。
そんな中、常連のお客様から、「東京から大切なお客様を招くので、任せるから最高の料理を食べさせてくれ。そして一品ずつ説明してよ」と予約が入りました。これはチャンスと張り切って、築地や名古屋から食材を取り寄せ、つきぢ田村さんでの献立を基にした料理を作ってお出ししました。若手たちには手伝わせず一人で料理して。
食後の感想は、「美味しかったよ。でも、東京でも食べられる料理かな。」でした。
東京からお越しになったお客様に、わざわざ東京の真似ごとの料理を出してしまっていたのです。こちらの食材は使わずに。その時、山に行ったのに新鮮ではない刺身が、海に行ったのに山菜が出てきたのと同じ事だと気が付きました。そして自分は地元のことは何も知らないということを改めて思い知りました。近くの漁港でどんな魚が獲れて、近くの畑でどんな野菜が育っているのか。調味料も八丁味噌さえ使ったことがないことも。場所は変わっても意識は東京の料亭という学校から卒業できずにいたのでした。

その翌日から、朝5時くらいに車で20分くらいの一色漁港へ出かけるようにしました。すると見たこともない魚や貝や海老などがたくさん。何も知らないので魚屋さんたちに一つ一つ聞きました。「何て名前ですか?」「どう料理するとうまいですか?」最初は「そんなことも知らんのか。」「色が赤いから金魚だ。覚えとけ。」と、そっけない感じでしたが、毎日話をしているうちに、色々と教えてくれるようになりました。ヒラメやタイの目利きの仕方とか。ここの魚の旬のこと。この魚は煮るより焼いた方がうまいとか。ちょっと珍しいのを、自分のために競りで落としてくれたことも。どんな魚に出会えるのか楽しみでした。
そして、調味料のことも勉強したいと思い、まずは父親と親交のあった、まるや八丁味噌さんに見学に伺いました。広い敷地中に並ぶ木桶と山高く積まれた石に圧倒され、当時営業部長だった浅井さん(現社長)の話を聞き、すっかり魅了されました。三河みりんや白醤油などの蔵元にも続いて訪問しました。そして野菜の畑などにも。
その当時は見学に来る調理人は珍しかったのでどこも優しく教えてくれました。
そうして地元食材の良さを実感しました。何よりそこで出会った方々がすごく魅力的なのです。この食材を使いたい、お客様にも伝えたい。と思うようになり、ずっとお付き合いいただいております。

そういったことから、献立を立ててから食材を揃えるのではなく、食材を見て料理を考えるようになりました。
出来る限り縁のある方々の食材を縁のある調味料を使って料理して。ここの料理だと胸を張れるように。生産者から料理を通して消費者へバトンがつながるように。

◯個性的で情熱的、多種多様な発酵調味料の底力

愛知は食材の宝庫です。多くの漁港があり、様々な魚介類が水揚げされます。そしてウナギの養殖も名高いです。肉類においても地鶏な名古屋コーチン、牛や豚も銘柄品種があります。温暖な気候で野菜の生産も盛んで全国一の生産高を誇る野菜もいくつかあります。それと共に、昔ながらのあいちの伝統野菜もあります。

そして、愛知は多種多様な発酵調味料の産地です。八丁味噌、三河みりん、白醤油、たまり醤油、酢、日本酒。これだけの多様な種類が揃う地域は他にはありません。しかも、それぞれがすごく個性的で、生産者さんも情熱的で素敵な方が多いです。

気に入っている食材としては、あいちの伝統野菜です。今から60年以上前から作られ続けており、それぞれ地域由来の名前がついています。しかしながら、作りにくいことや、大きさや形など流通の規格に合わないなどの理由でほとんど姿を消してきました。そんな中、野菜ソムリエの大御所でもあった高木幹夫さんが「あいち在来種保存会」を立ち上げ、自ら畑を耕し、種を残しております。自分もそれに共感して、一緒に様々な料理イベントなどを開催し、伝統野菜の大切さを伝えております。ちりめん南瓜は見た目がインパクト大、そして昔ながらのあっさり味。料理していて楽しいですよ。

調味料はどれも気に入っているのですが、やはり八丁味噌。こちらの仲間は大先輩に敬意を払います。自分たち食関係の会の挨拶は常にまるや八丁味噌の浅井社長です。ちなみに締めは三河みりんの角谷社長です。八丁味噌は700年以上の歴史があり、全国でも知らない人はいない味噌です。木桶で仕込み山高く石を積んで3年。三河の自然環境に委ねて造られ続けています。初めて使うときはとっつきにくい印象でも、使っていくうちにクセになります。他の味噌とは違い煮込んでも逆に風味が増す、底力の強い味噌です。

どちらも長きにわたりこの土地で作り続けられているもので、短期間のうちに安易に作られものと比べると、味の奥行きが違います。

◯ 怒ることを忘れた10年

料理におけるマイルールは、食材(生産者)に敬意を払うことです。凝りすぎて食材が分からなくなるような料理は作らないこと。そして出来るだけ使い切る(後始末を考えて料理する)こと。生産者さんがお越しになった時に、自信をもって説明できる料理を作りたいと思っています。

それから、調理場でのマイルールはチームとして考えることと、怒らないことです。今となっては恥ずかしいことですが、東京から帰ってきた時の自分は本当にひどいものでした。どうせ誰も自分のように出来ないからと、遮二無二一人で仕事をしていました。ちょっとしたトラブルで間に合わなくなると、周りの若手を怒鳴り散らして。結果、人も育たず独りよがりで、雰囲気も悪かったです。それから数年後、弟たちが入社し、ある時若い子を怒鳴っているのを見た時から、自分は怒るのを止めました。怒るのではなく注意し諭す。長々と注意するのでなく簡潔に。そして出来る限り何でも理論的に教える。一緒に考える。周りにとっても自分にとっても楽になり、流れも考え協力したチームの料理になってきたと思います。

そして、スタッフや仲間に恵まれたこともあり、もうかれこれ10年以上怒ることを忘れております。ありがたいことです。

◯ 自粛中の「灯り」、食の大切さや魅力を届けたい

昨年からコロナの影響が続き、飲食店も非常に厳しい状況が続いております。時短営業要請。先ずは宴会など人数が集まっての食事は止めてください、から、マスク会食に。そして、会食は出来る限り止めてくださいと。楽しいはずの外食が行きづらくなっています。

そして小学校にて行ってきた白醤油講座や、長年続けてきた大学のオープンカレッジや、料理講座などリアル開催のものは軒並み中止となりました。そんな状況でも出来ることをやろうと、こちらの大学教授や料理研究家などで「あいち発酵美食学コンソーシアム」を立ち上げ、あいちの発酵を通した食の魅力をオンラインで発信しています(2月までに計10回)。それから食に関する旬のゲストを交えてトークを配信する「旬を楽しもONLINE」も定期的に開催しています(こちらも2月までに計10回)。

その他にもいろいろと企画して、自粛で気が滅入る中、少しでも灯りを届けられるよう、オンラインで食の大切さや魅力を伝えていきたいです。

そしてホールフードスクールでも、高木さんとの伝統野菜講座を開催しています。(講座:畑からキッチンへ あいち伝統野菜のおいしい食べ方

本来ならばリアルに開催して実際に食べていただきたいのですが、オンラインの良さを生かして、ご自宅で昔ながらの野菜の魅力を味わっていただけるようにしたいと思います。

もちろん落ち着きましたら、リアルな開催も合わせてやっていきたいです。

◯この厳しい時を乗り越える食のパワー

タカコ先生とは、日東醸造蜷川社長のご紹介で数年前にお会いしました。父親の代から真空調理をやっていますので、50℃洗いや低温蒸しの話もよく理解でき、ホールフードの考え方も素晴らしいと思いました。その後醸しツアーなどで毎年ずっとお世話になっております。そしてホールフードスクールで和食のいろは講座も開催させていただいております。

タカコ先生の思い出は数々ありますが、すごいと思うのは、行動の早さです。おせちのことを勉強したいからと、急遽日程調整をしてこちらに数日手伝いにお越しになったこともあります。それと、これをやらなきゃという使命感の強さです。目先の儲けのことだけでなく、先を見つつ正義感を持って行動されていると思います。ホールフードしかり、三河の調味料や伝統野菜に対してもすごく愛を感じます。感謝しております。

そしてお会いするたびにますますパワフルになっていっていると感じます。こちらもパワーをいただけます。この厳しい時を食のパワーで乗り越えていきたいですね。