《Interview》株式会社アサクラ代表 朝倉玲子さん

Wholefood Interview

株式会社アサクラ代表

朝倉玲子さん

− 本物のオリーブオイルと、五感を呼び覚ます料理を伝えて −

 

| 朝倉玲子プロフィール | 

1964年生まれ、会津若松在住。
ケータリング会社、有機農業に携わった後1996年より3年間イタリアで過ごす。
南イタリアの有機農家民宿4軒、ミシュラン三ツ星レストランにて料理修業。各地の郷土料理を学ぶ。

イタリアリグリア州・オリーブオイル鑑定技能講座にてオリーブオイルについて学ぶ。オリーブ農家民宿にてオリーブオイルの素晴らしさに開眼、また業界の内情に疑問を持ち、本物のシングルエステートを探し、イタリア滞在中にエキストラバージンオリーブオイル・オルチョサンニータと出会い、帰国。会津若松にて2000年より輸入開始する。
オリーブオイルを使いこなすコツを、身近な旬の素材と合わせ習得できるようにアレンジしたシンプルな料理法から、五感をフルに使うことの重要性に気づかされ、現在全国でイタリア料理本来の基本を講習会で教える。
オリーブオイルはもちろん、取扱いの食材は全て生産者との直接取引にて、毎年クオリティの維持と更なる進化の為に常に生産者と密な関係を築いている。

 

株式会社アサクラ

https://www.orcio.jp

〇苦手だったオリーブオイル、そして運命の出会い

初めは苦手な植物油としてのオリーブオイルでした。オリーブオイルについては全く興味もなく、イタリア料理を勉強したいとイタリアへ行きましたが、はじめの修業先の農家民宿がたまたま有機オリーブ農家でした。

そこでの料理にカルチャーショックを受けました。信じられない量のオリーブオイルをあらゆる料理に使い、出来上がる料理の美味しさに驚きました。それからオリーブオイルというものの概念が変わりました。

興味がわくと共に、オリーブオイルは混ぜ物があたりまえというのを現地で目の当たりにし、本来の真っ当なオリーブオイルを日本で広める仕事をすると決め、帰国。オルチョサンニータの輸入を2000年から始めました。

輸入販売当初は、日本人のオリーブオイルに対する認識は私がイタリアに行く以前と全く変わらず、 オリーブオイルはどういうものか?どうやって料理に使用し生かすか?がわからなく、その価値を知っている人はほとんどいないに等しい状態でした。

販売開始後は、どこに出しても恥ずかしくない品質で自信満々でしたが、まったく相手にされなく、いいものだけれどその真価を伝えるのは難しいと苦難の日々でした。
ある時から「オリーブオイル使い方教室」を始め、実際に使い方のコツとおいしさを知ってもらうよう全国を回り、少しずつ理解者が増え広がっていき現在に至ります。

 

 

◯オリーブオイルと五感で感じる料理を

オリーブオイルは主役になるものではなく、あくまで野菜や肉魚などの素材をおいしくするツールです。 ほんもののオリーブオイルならその素材を引き出す力があります。

特にイタリア料理は塩とオリーブオイルだけで料理することが多く、主役となる素材の良さが重要です。イタリア料理の手法を知ると、主役の野菜などの素材の良し悪しが重要だという事が、オリーブオイルを通して腑に落ちました。

日本の野菜は水分が多く、イタリアのものに比べ味が淡白ということも、全国で出張料理教室をするようになり実感しました。

そのような中で、日本にも土壌を重視したオーガニック栽培や自然栽培の作物があり、それらで料理するとイタリアに近い味が出せることに、料理するごとに気づきました。

シンプル料理だからこそ出来上がる味に素材の力は表れ、料理すればするほど、素材由来による料理の出来の違いが自分にインプットされ、自分の目と舌など五感が研ぎ澄まされていきました。

ある時から『五感を呼び覚ます料理教室』という題名の料理教室を行っています。

オリーブオイルの使い方のレクチャーと共に素材を見極めるには、ラベルや誰がどう言ったなどの情報だけではなく、料理する自分の感覚が大事だと強調しています。視・聴・嗅・味・触の五感全部を使って感覚を大事に料理をする、素材を吟味し素材に合った調理をしましょう、と。素材と向き合うことは食べる状況や体調のコンディション、気候と、そして体が欲するもの、それは頭では考えることではなく、五感で感じることです。台所でそれを采配するのが料理する人であり、家庭料理の本来あるべきもの、と皆さんに気づいていただけるようにレクチャーや発信をしています。

また自身でもオリーブ栽培とオイルの製造に携わる縁にもめぐまれ、農薬や肥料を使わない農法で中部イタリアのアブルッツォ州で活動しています。

オリーブ栽培を経験し、いろいろなことを畑は現象として見せてくれ、農薬など資材に頼らない農業こそ、環境負荷のない未来の農業としての重要性を感じています。

また、後継者のいないオリーブ栽培はイタリアでも深刻化しており、美しい景観も崩れていく現状に、農業が食料供給としてだけでなく環境や景観美など地域に及ぼす影響が大きいと感じています。

 

◯迷っていた時、信じてくれたタカコ先生との出会い

オルチョサンニータの販売を開始した翌年に、知人を介してタカコさんを紹介していただきました。百貨店、食料専門店などに飛び込み営業し断られ続けており、どうしたらいいか迷っている時期でもありました。

前述しましたが、良いオイルだということだけは自信を持っていましたが、良いものだから評価される・商品と人(食べる人)がすぐつながるものではない、ということに悶々としつつあった時に手を差し伸べてくださった第一号です。

売れるか売れないか重視の一般の販売のお店ですが、話をきちんと聞いてくださり私の話をご理解、信用して下さったことに本当に感謝しています。しかも今も変わらずずっと応援下さっています。

理解する人が現れたことで、それがきっかけとなり次から次へと取扱う販売店さんが広がっていき、人は一人では何もできないんだということを、オルチョサンニータの普及を通し学びました。人の縁こそ大事、を学びました。

 

◯つくる人と食べる人がつながり合える食の未来を

日本でも農業の経験があり、オリーブの栽培を通してはいつも農業は常に身近にあります。日本でもイタリアでも農薬使用が当たり前ですし、特に除草剤の多用はなんとかならないか、といつも思っています。農業従事者の高齢化などがベースにありますが、農業をもっと魅力あるものとして、経済的なことも含め、若い人が興味を持ち就農できるような仕組みを早急に考えていかねばならないと思います。ニーズとなる食べる側の認識も向上しないと成り立たないので、どうにかして、つくる人と食べる人が本当の意味でつながり、お互い理解し、需要供給のバランスが保てるような未来を作っていかなければならないと思います。農業は魅力あるものとという認識に転換できる時が来ることを祈っています。

◯本物を美味しさを丸ごと、ホールフード

私は22歳の時に食を仕事にすると決め、初めの入り口がいきなり自然食でした。そしてそれからずっと自然食に携わっています。

もともと子供の時から食べることに興味があり、おいしいものを食べたい!が一番でした。食の世界に入り初めて自然食という言葉を知り、食べ物や食材に、偽物と本物があることを知りました。偽物は悪、というより、偽物はまずおいしくない。本物の食材の本当の美味しさに目覚めました。本醸造の醤油だったり味噌だったり、無農薬の野菜や果物だったり、抗生物質を使わない平飼いの卵だったり肉だったり。そしてそれらの食材は捨てる部分はほとんどなく、皮ごと丸ごといただけたりするわけです。素材自体にしっかり味があるので調理・味付けもシンプルでよくなります。それらは今までの料理とは次元の違う美味しさです。それまでの常識を覆し、本物はホールフードなのだと。そしてそれは良いことづくめ。

食べることにより環境への負荷を最小限にし、それらを作っている生産者の方を支援することにもなります。

どうにかしてみなさんがそのことに気づいて本物の美味しさを丸ごと味わい、舌と心で感じていただきたいと思います。